2018.09.02

おすすめのオールドレンズはこれだ!第2回:Ernst Leitz Summarit 5cm F1.5

こんにちは!
玄光社フォトテクニックデジタルでオールドレンズのススメを連載しております、鈴木 啓太/urbanです。来月号以降、本誌にてオールドレンズ初心者の方向けの特集記事を執筆予定ですのでお楽しみに!

さて、皆さんに僕のおススメレンズを紹介するこの企画ですが、2回目にして早速Leica(ライカ)のレンズとなりました(笑) ライカのレンズは(描写的にも価格的にも)奥が深く、一度踏み入れるとなかなか戻ってこれない中毒性があります。そのあたりを少しでもお見せできればと思っております。

さて、今回は僕が最も好きなレンズの1つである、Summarit(ズマリット)の紹介です。Summarit 5cm F1.5はSchneider(シュナイダー)社が1932年に開発したハイスピードレンズ、Xenon(クセノン) 5cm F1.5から技術供与を受け、Leitz(ライツ)社初の大経口レンズとして発売されたレンズといわれています。ズマリットを経て、かの有名なSummilux(ズミルックス) 50mm F1.4が誕生するわけですね…うーん感慨深いです。同じライツ社から発売された、Summar(ズマール) 50mm F2と同様、ガラスが非常に柔らかく、スリ傷、クモリが発生しているものが多くみられます。ズマリット(ズマリットを含めた1900年代中期あたりまでのライカ系レンズ)には収差が多くみられるため、ピントの合う範囲が非常に薄いのが特徴です。ピントの山を少しでも過ぎると、収差の渦に飲まれ、たちまちぼやけた写真になってしまう。これがいわゆる「ボケ玉」と揶揄されていた所以です。ですが実際は十分な解像度があります。ズマリットはゴースト、ぐるぐるボケ、にじみに加え独特の柔らかさを持ったレンズです。オールドレンズ的特徴が豊富なレンズですので、今回はその特徴に焦点を当てていきましょう。

まず一つ目の特徴はゴースト。写真の下部に出ている虹のことですね。このズマリットのゴーストは、独自の特徴があります。
・ゴーストの出現時間帯が長い
・他社製のレンズと比べ虹の色がはっきり出る
1点目はTakumar(タクマー)等のゴーストと比べ、光の入射角が深くても出せるのがポイントです。夕方の逆光でなくても出すことができるため、比較的長い時間帯でゴーストを出現させることができます。夏でも15時過ぎくらいから、冬なら午後から、それはもうバンバン出ます(笑)2点目はレンズ表面に光を当てるとわかるくらい、はっきりとその虹の反射を見ることができます。使いどころが難しいですが、写真表現に幅を持たせることができるのはメリットかなと思います。

これは夏の室内での撮影。室内でも逆光を捉えればゴーストを出すことができます。

これはモデルに横になってもらった状態での撮影。こんな低いアングルでもゴーストを出すことが可能です。
さて次は2つ目の特徴であるぐるぐるボケです。ダウルガウス型のレンズによく見られる特徴で、ズマリットでは開放で使うとデジタルだろうがフィルムだろうが容赦なく出現します。好みがわかれる描写かもしれませんが、現代レンズではほぼ出ないため、ザ・オールドレンズといった描写を楽しむことができます。

このレンズの場合、ぐるぐるボケは可能な限り最短撮影距離で、かつ背景がごちゃごちゃしているところを選ぶと出やすいです。その特徴から構図も日の丸になりやすいですが、それを引き立たせるような効果がぐるぐるボケなので、花やポートレートなど、中心に添えやすい被写体を撮ることがポイントになります。

ポートレートで使うとこんな感じになります。非点収差からなる現象なため、F値を2~2.8程度まで絞ることで、その効果を消すことができます。
特徴の3つ目はにじみです。にじみはコマフレアからなるヴェールに包まれたような描写が特徴で、オールドレンズの描写でも玄人好み。僕もライカのレンズに出会うまで、その良さがよくわかりませんでした。ライカの「あ、いいな」と思うレンズには大体このにじみが備わってるんですよね。瑞々しく、それでいてノスタルジー。そんな描写をしてくれます。

ここからはできればPC等の大画面見ていただきたいですが…わかります?このピントが外れていてもにじみに救われているような感覚(笑)ここではあえて没カットも含め、自然な描写を見てもらいたくて載せました。どことなくフィルムライクな描写と、淡いにじみのマッチングこそがライカレンズの魅力なんじゃないかと気づかされます。

この写真右側の背景と服がにじみに包まれている感じが美しいですよね。何本ものオールドレンズを試しましたが、やはりライカレンズのにじみは一味違うなと思い知らされます。非常に人気のあるライカレンズですが、皆さんライカレンズのどこに惹かれているのか興味があります。オールドレンズ的描写で言うとゴーストもぐるぐるボケもそうなんですが、僕はやはりこの瑞々しいにじみが好きです。彼の有名なCarl Zeiss(カールツァイス)のレンズはよく、空気まで写すレンズと言われますが、ライカは湿度が写るレンズなんじゃないかなと個人的に思っています。この辺りに共感いただけている人は、ライカ沼にハマってる人なんだろうなと嬉しくなります。(僕自身ライカを使い初めて日が浅く、非常に恐縮ですが…)

このあたりの柔らかさ、湿度が伝われば嬉しいです。
今回の作例では深く絞っている写真は少ないですが、F4~8程度まで絞れば十分な解像感が得られるのも、この時代のライカレンズの特徴ですね。開放よりの淡さと絞った時の解像感といった2面性を持ち、とても使い出のある懐の広いレンズだと感じます。僕はF2くらいの絞りが、レンズの特徴と描写力のバランスが得られて好きです。ゴースト、ぐるぐるボケを出したいときはF1.5の開放、フレアやにじみを残しつつ、少しシャープにしたい場合はF2を選択しています。
もし興味があって購入を検討されている方は、是非中古カメラ店等でお手に取ってご覧下さい。前述のとおり、傷やクモリの多いレンズですので、状態が悪いと少なからず写りに影響が出る可能性があります。特にピントの合う範囲が非常に狭いレンズですので、状態の悪い物はなるべく避けましょう。ポートレートにおいて絶妙な収差を出すには、TECHART LM-EA7というAF(オートフォーカス)が使える魔法のマウントアダプタを使って撮ると、若干ピントが外れたりするのでおススメです(笑)LM-EA7については別途特集しようと思いますので、またの機会に。興味のある方は、インターネットで検索いただくとビックリするかも…。
それでは最後にいくつか作例をご覧いただき、第3回でお会いしたいと思います!

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作例には次の機材を使用しています。

【撮影機材】
Camera:SONY α7Ⅱ
Lens:Ernst Leitz Summarit 5cm F1.5
Mount Adapter:TECHART LM-EA7