Hasselblad(ハッセルブラッド)の最高峰2000FCWとF PLANAR 110mm F2
オールドレンズ写真家の上野由日路(よしひろ)です。今回はかつて世界中のプロカメラマンに愛用された6cmX6cmのスクエアーフォーマットのカメラHasselblad(ハッセルブラッド)を紹介したいと思います。
1942年に誕生したハッセルブラッドを一躍有名にしたのがアメリカのアポロ計画だ。1969年7月20日アポロ11号のニール・アームストロング船長が月面に降り立ったときの写真はプレート付きハッセルブラッド500ELデータカメラで撮影されたものである。1962年NASAに採用されたハッセルブラッドは数々のプロジェクトに参加し10万枚以上の写真を撮影した。NASAが正式採用した信頼性と精緻なつくり、CarlZeiss(カールツアイス)の高性能レンズ群によりハッセルブラッドは世界最高峰のプロフェッショナル中判カメラの地位を不動のものとした。
世界最高峰の地位を得たハッセルブラッドが1977年に満を持して発表したのがHasselblad 2000FCシリーズだ。ハッセル社ではこれまではレンズ側にシャッターを内蔵したレンズシャッター方式を採用してきたが、それだとシャッタースピードの最高速は1/500秒となってしまう。新しい2000Fシリーズではハッセルブラッドシリーズ最速の1/2000秒のシャッタスピードを実現した。実はハッセルブラッドの初代はフォーカルプレーンシャッターを採用していた。1600Fと名づけられたこのシリーズはシャッタースピード1/1600秒を達成していた。当時としては技術的なハードルが高く量産が難しかったため1952年にシャッタースピードを1/1000秒まで落とした1000Fを発表した。ハッセルブラッド2000FCは初代ハッセルブラッドの正統後継にして当時断念したシャッタースピードを実現したハッセルブラッドの悲願のカメラであった。それを可能にしたのがチタン製のシャッター幕だった。2000FCはそのシャッタースピードにより明るいシチュエーションでも従来のレンズシャッター機である500シリーズに比べて2段ほど絞りを開けることが可能となった。微妙な差に思えるかもしれないがF5.6とF2.8の表現はまったく違う。2000Fは従来のハッセルには無い新しい表現領域を手に入れることに成功したのだ。またフォーカルプレーンシャッターを採用することによりレンズ内にシャッターを内蔵する必要が無くなった。このことによりレンズ口径の制約がなくなり自由なレンズ設計が可能になった。このことにより生まれたのがFディスタゴン50mm F2.8 、Fプラナー110mm F2、 Fゾナー150mm F2.8といったハッセルブラッドで最も明るい高性能レンズ群だ。特に110mm F2はその極めて薄い被写界深度でピントを合わせることすら困難だ。その反面ピントがあったときにはこのカメラ、このレンズでしか表現できない領域を垣間見ることが出来る。
しかし時代はいやおうなくデジタルの時代を迎えていく。シンクロタイミングの取りやすいレンズシャッターの500シリーズはデジタル化に対応できたがフォーカルプレーンは対応するために修理が必要であった。様々な革新的技術も本体価格の上昇につながり、500シリーズを遥かに超える価格となっていた。これらの要因もあり時代の波にのまれる形でフォーカルプレーンのハッセルは忘れられていった。しかし妥協のないボディーとレンズの進化によりハッセルブラッドのフォーカルプレーンシリーズはハッセル史上最高の表現力を手に入れていたのだ。
Camera:Hassel 2000FCW
Lens:F-Planar110mm F2
Film:FUJIFILM160NS
model:彩夏子