2018.09.11

素朴で軟らかい写りを堪能できるロシアン・テッサー:KMZ Industar-22 50mm F3.5(ライカLマウント)

 

テッサータイプと言わば「鷲(わし)の目」などと呼ばれ、シャープなレンズの象徴みたいな扱いをうけてきた時期もありました。でも、それは大昔の話で、現代のレンズの基準からみればごく平凡なシャープネスでしかありません。むしろ、古い時代のテッサータイプの写りには軟らかく素朴な印象を受けることが多くあります。かく言う私もテッサータイプは古いものが大好きで、古いとは言ってもテッサー誕生の20世紀初頭までさかのぼるわけではなく、1940年代後半から1950年代辺りの製品です。この頃のテッサータイプのレンズにはトーンのつなぎ目を感じさせない軟らかい描写のものが多くみられます。また、製品によっては新種ガラスが導入され描写性能の大幅な向上を果たしていますが、新種ガラスが経年とともに茶色く色付いてしまう「ブラウニング現象」のため、結果としていい味を出してくれます。序文が長くなりましたが、今回は1940年代末からロシア版コピーライカのFEDに搭載され活躍したテッサータイプのインダスター22(INDUSTAR-22)というレンズを紹介してみたいと思います。

レンズの誕生は1945年でロシアのレンズ設計士M.D.Moltsevという人物が光学系を設計、試作レンズが作られました。市場供給が始まったのは1948年でレンズはモスクワのクラスノゴルスク機械工場(KMZ)の393番プラントで生産されました。初期のモデルはガラス面にコーティングのないノンコート仕様でしたが、1949年には薄いブルー系のコーティング(初期のP コーティング)が施されたモデルが登場しています。1949年から1950年にかけて一時はカザン光学機械工場(KOMZ)も生産に乗り出していますが、市場で見かける製品個体の数は大半がKMZ製でKOMZ製はごく僅かです。

このレンズにはライカの名玉エルマーに採用されていた「沈胴式」とよばれる機構が採用されています。撮影を行うとき以外は上の写真のようにレンズがカメラの内部に引っ込んでコンパクトになり、撮影時には下の写真のように引き出して使うのです。古い沈胴式レンズは憧れでしたので、デジカメにマウントすると、「どう、マニアみたいでしょ?」とばかりに、ちょっと得意気な顔ができます。

☆★レンズの沈胴に関して★☆

マウントアダプター経由でデジタル一眼カメラに搭載する場合、沈胴には十分に注意してください。SONYのA7(初代機)では沈胴時にレンズの鏡胴がボディ内部と干渉するようです。他の機種でも干渉の恐れがあります。沈胴させたままシャッターを切るとシャッター幕が破損する可能性もあります。沈胴させる場合には事前に十分に調べ、自己責任で行ってください。

 

後になって気づいた事ですが、私が手に入れた製品個体はシリアル番号から1980年に製造されたもののようで、古いテッサーを紹介したいという本記事の趣旨には合いません。設計は古いままなので軟らかい階調描写が堪能できるとは思いますが・・・。はたして、どんなもんでしょう。作例どうぞ。

撮影機材:SONY α7RII

 

 

 

 

重厚で落ち着いた発色で、少しくすんだようにも見えます。軟調なのかと言えばそうなのですが、あっさり感はないので、味わい深い画作りができます。階調はシャドーに向かってなだらかに変化しており、トーンがとても丁寧に出ています。画質は開放から実用的で、四隅まで乱れることのない安定感のあるレンズだとおもいます。

レンズのマウント規格はライカLです。デジタルミラーレス機の各種にマウントするためのアダプターが豊富に存在します。

本記事は筆者のブログM42 Mount Spiralに掲載予定の記事を簡易化したものです。