2018.08.23

画質の乱れを楽しもう!:LZOS TAIR-41M 50mm F2

オールドレンズユーザーのspiralです。今回はちょっと変わったレンズをご紹介します。

16mmフィルムの映画用カメラに供給されたレンズはイメージサークルが小さく、使用できるカメラが限られるため、手頃な価格で手に入れることができます。しかし、調べてみると中には16mmフィルムを大幅に超える広いイメージサークルを持つレンズがあり、マイクロフォーサーズセンサーやAPS-Cセンサーを搭載したデジタル・ミラーレスカメラでも撮影を十分に楽しむことができます。今回ご紹介するTAIR-41M(タイール41M)は、まさにそういう類のレンズで、ロシアのLZOS(ルトカリノ光学ガラス工場)がKiev-16Uという16mm映画用カメラに搭載する交換レンズとして、1960年代から1980年代半ばまで生産しました。この手のレンズを現代のデジカメに搭載して使用する場合、設計時には想定していなかった様々な画質の乱れが発生し、私たちを大いに楽しませてくれます。たとえば写真四隅の光量落ちは雰囲気のある写真作りの助けになることがありますし、像面湾曲は立体感に富んだ画作りの助けになります。このような画質の乱れをうまく活かすことも、オールドレンズの楽しみ方の一つです。

レンズの設計は上の図に示すような4枚構成で、第二次世界大戦中にロシアのDavid Volosov教授と彼の共同研究者であるGOI(State Optical Institute)のエンジニアたちの手で、トリプレット(3枚玉)からの派生として生み出されました。はじめは軍からの要望で、暗い場所でも使用できる高速望遠レンズを開発することが目的でしたが、終戦後は写真用レンズやシネマ用望遠レンズに積極的に採用されています。

本レンズをデジタルカメラで使用するには、Kiev-16Uマウントのレンズに対するミラーレス機用のマウントアダプターを手に入れます。ネットオークションのeBayでは、この手のアダプターの市販品が3000円~5000円程度の値段で売買されています。「Kiev-16U, adapter」の検索キーワードで探してみてください。マイクロフォーサーズ(MFT)マウント、ソニーEマウント、Nikon 1マウント、Pentax Qマウント、Cマウントなどにマウント部を変換するためのアダプターが見つかると思います。

では、写真作例を見てみましょう。撮影時のイメージフォーマットはAPS-Cとし、カメラの設定で写真のアスペクト比を16:9にしています。

撮影機材:LZOS Tair-41M(ゼブラ柄・前期型)+Fujifilm X-T20

 撮影機材:LZOS Tair-41M(後期型)+sony A7R2(APS-C mode)

撮影機材:LZOS Tair-41M(ゼブラ柄・前期型)+Fujifilm X-T20

撮影機材:LZOS Tair-41M(後期型)+sony A7R2(APS-C mode)

開放では美しいフレアが被写体を覆い、人物のポートレート写真で大活躍してくれます。さすがにトリプレットからの派生レンズと言えるだけのことはあり、写真中央の描写は高解像で密度感があります。四隅に目を向けると、デジカメの広い撮影フォーマットでは像面湾曲が目立ち、立体感に富んだ画作りができます。ピント部前方には放射ボケが美しいフレアを纏いながら発生し、妖しい雰囲気を作り出しています。こうしたフレアは一段絞るだけで完全に消失し、スッキリとヌケのよい像に変わります。このレンズは絞れば素晴らしくシャープなレンズなのです。コントラストは高く、発色にも鮮やかさあります。ただし、逆光には弱く、ハレーションの影響によりコントラストが落ち発色も濁りますので、濁りを避けたいなら適切な深いフードを装着することをおすすめします。被写体の背後では距離によってはグルグルボケが発生しますが、四隅で玉ボケが細長く潰れてゆく効果(強い口径食)と相まって、なかなか妖しいボケ味を醸し出しています。歪曲収差は巻き状でした。様々な画像の乱れを伴いながらも基本的にはシャープで高発色。美しい滲みを纏う絶品レンズだとおもいます。

※この記事はM42 mount spiralという自身のブログに掲載されている記事を新たに加筆・編集したもので、一部の画像は既出のものを使用しています。