ロシア製ポートレートレンズの鉄板 KMZ/LZOS JUPITER-9 85mm F2
カール・ツァイスの銘玉ゾナー8.5cm F2のクローンコピーとして誕生し、美しい描写、豪華な設計、高いコストパフォーマンスから今でも絶大な人気を誇るロシア製ポートレートレンズのジュピター9(JUPIER-9 )をご紹介します。
スチル撮影用Jupiter-9 85mm F2(Leica-L mount)+ sony A7R2 dressed in Recoil(Recoilar) High-grip custom-case
20世紀を代表する明るいレンズと言えば、真っ先に思い浮かぶのはガウスタイプとゾナータイプです。両者は設計構成のみならず描写の性格も大きく異なり、レンズの設計構成が描写の方向性を決定づける一大要因であることを私たちに教えてくれます。ガウスタイプの特徴がキレのあるフォーカス、線が細く繊細で緻密なピント部、破綻気味のボケであるのに対し、線が太く力強いピント部、安定感のある端正で優雅なボケを提供できるゾナータイプは、ガウスタイプとは異なる性格の持ち主でした。ご存知かもしれませんが、ゾナータイプとはカール・ツァイスのレンズ設計士ルードビッヒ・ベルテレが戦前に設計したゾナーを始祖とするレンズです。日本やロシアでは戦後にゾナーを手本とするコピーレンズがたくさん作られ、ロシアではこの種のレンズがジュピター(ユピテル)の製品名で市場供給されます。ジュピターは1948年に既に登場しており、モスクワのクラスノゴルスク機械工場(KMZ)にて、はじめはZK(Sonnar Krasnogorsk)というコードネームで開発されました。このモデルの製造には第二次世界大戦の戦後賠償としてロシアがドイツ国内から持ち出したガラス硝材が使われています。ZKはレンズの血肉であるガラスまでもがオリジナルと同一の、いわゆるクローン・ゾナーだったのです。
ジュピター9にはシネ用(左)とスチル用(右)があり、同一構成ながらも別設計で市場供給されました。対応マウントはM42, L39, キエフ(旧コンタックス互換), Kiev-10/15, および映画用カメラのAKS-4Mです
映画用Jupiter-9 85mm F2(AKS-4 mount)+ sony A7R2 dressed in Recoil(Recoilar) High-grip custom-case
KMZは1950~1957年にジュピター9を複数回モデルチェンジしていますが、1958年にレンズの生産をLZOS(ルトカリノ光学ガラス工場)とウクライナのARSENAL(アーセナル)工場に引き継ぎ、映画用カメラなどに新モデルを投入する場合を除き、基本的にはジュピター9を造らなくなっています。では、写真作例を見ていきましょう。
撮影機材:KMZ Jupiter-9(for cinema camera AKS-4M)+sony α7R2
撮影機材:KMZ Jupiter-9(for cinema camera AKS-4M)+sony α7R2
撮影機材:KMZ Jupiter-9(for cinema camera AKS-4M)+sony α7R2
撮影機材:LZOS MC Jupiter-9(for still)+Nikon D3
撮影機材:LZOS MC Jupiter-9(for still)+Nikon D3
ジュピター9は解像力ではなく、階調描写力で勝負するレンズです。線の太い力強い描写を真骨頂としており、なだらかなトーンと安定感のあるボケが優雅な雰囲気を作り出してくれます。細部まで写りすぎない性質は、ポートレート撮影における大きなアドバンテージとなるはずです。
※この記事はM42 mount spiralという自身のブログに掲載されている記事を新たに加筆・編集したもので、画像は既出のものを使用しています。