2018.07.02

ポートレート撮影におけるシネレンズという選択肢 ~Carl Zeiss Cine Planar~

「写真に物語を。」シネマティックフォトグラファーのTakeです。
このたびLENS HOLICで執筆させていただく事になりました。よろしくお願い致します。

シネレンズと呼ばれるレンズをご存知だろうか?
映画撮影を目的として作られたレンズである。
最終的に映画館の大スクリーンへの投影を目的として作られるシネレンズは、厳しいクオリティーコントロールが求められ、各社その時代の技術力を結集して設計・製造を行ってきた。結果、一般的なスチルレンズと比べその値段は極めて高額になる。しかし、オールド・シネレンズであれば(ぎりぎり)手を出せる値段となっているものも存在している。そんな中、今回はCarl Zeiss のCine Planarシリーズを取り上げ、ポートレート撮影におけるシネレンズの可能性を見てみたいと思う。

まずは、順光での描写を見てみよう。

Carl Zeiss Cine Planar 50mm F2.0 + Sony α7ii
1950年代のレンズとは思えないほど、高発色・高コントラストな描写である。この時代の一般的な50mm Planarが4郡6枚のダブルガウスであるのに対し、このレンズは5群6枚の独自設計(変形リバース・クセノタール型)となっている。Zeissがプロ市場向けに本気で設計・製造をしたことが伺える描写である。

次に逆光での描写を見てみよう。

Carl Zeiss Cine Planar 50mm F2.0 + Sony α7ii
ガッツリとシャワーゴーストが入りフレアものることで全体的に優しい描写となっている。しかし、注目して欲しいのはピント面である。これだけの収差(ゴースト・フレア)の中しっかりと解像していることがわかる。これこそオールドシネレンズの描写の魅力の1つだ。収差がもたらす柔らかさと高解像が同居することでポートレートレンズとして理想的な描写となっている。

Carl Zeiss Cine Planar 85mm F2.0 + Sony α7ii
もう一枚逆光での写真。かなり強い夕方の光源を入れ盛大なゴーストを出してみた。一歩間違うと成立しない状況であるが、ぎりぎりまで粘るレンズ性能に助けられ成立した絵となっている。

最後にスタジオでしっかりとライティングを組み、絞りこんだ際の描写を見てみよう。

Carl Zeiss Cine Planar 85mm F2.0 + Sony α7ii
右手前よりビューティーディッシュ、ソフトボックスの2灯、モデルの左右にカポックをセットし撮影してみた。実に濃密な描写である。オールドレンズということを忘れるどころか、ここまでの描写をするレンズは現代レンズの中でも見つけ出すのは難しい。

個性的な描写の多いオールドレンズの中にあって今回取り上げたCine Planarは一見、没個性なレンズかもしれない。しかしその描写の特性を知り活用することで現代レンズ的な使い方からオールドレンズならではの表現まで幅広く対応できるポテンシャルを持ったレンズであるとも言える。ポートレート写真家にとってレンズラインアップの1本として一考に値するレンズであると言えるのではないだろうか。