ジャンクレンズで学ぶ深遠なるオールドレンズ(2)~CANON FL50mm F1.4の幻の初期モデルを探す
日本の戦後復興で、写真工業の発展は不可欠でした。官民一体となって、カメラ・レンズの開発と海外進出を模索していました。海外では、ライカのレンジファインダーの名機M3のリリースとともに、日本メーカーはレンジファインダーから一眼レフへの開発にシフトしていきます。一眼レフの開発は、カメラ本体に内蔵された露出AE機能とレンズとの連動機能とAF機能を搭載にて、日本らしい技術開発で、一眼レフカメラにおいて世界のトップメーカーに躍り出ます。
その一眼レフの開発当初、各メーカーはAE機能の搭載に苦心します。その一方、レンズの方は、標準レンズと言われる50mmの開発に力を入れます。カメラとセットで販売される廉価版としては、50mm F2や50mm F1.8が中心となっていましたが、各社は50mm F1.4のレンズへの挑戦をしていました。F1.4という明るさを実現するために、アトムレンズで屈折率をアップさせたり、50mmという焦点距離ではなく、58mmという焦点距離を選択したり、方法は様々でした。F1.4という明るさで、収差をいかに減らして解像度を上げていくかの戦いでした。
キヤノンは、一眼レフ用のレンズとしては、Rマウント、FLマウント、FDマウント、EFマウントと進化していきました。この中でも、FLマウントは1960年代に、後に人気機種となるFDマウントに繋がる開発が進んだレンズで、数年の違いでレンズ間で進歩が見られる面白いシリースです。後のキヤノンを代表するFDマウント、EFマウントのレンズとは違う個性を持っているのがFLレンズです。
FLレンズの中で主力だったFL50mm F1.4には、I型とII型があります。キャノンカメラミュージアムによりますと、I型は1966年(昭和41年)9月発売でレンズ構成が5群6枚、II型は1968年(昭和43年)5月発売でレンズ構成が6群7枚と大きく変わっています。外観も自動絞りリング(AM切り替え)の位置が、I型はレンズ先端部分にありますが、II型はマウント部分になります。I型の描写に比べて、II型は後のFDに近いしっかりした解像度を持っているようです。ただ、I型にはオールドレンスらしい魅力があります。
このFL 50mm F1.4 I型に関しては、レンズホリックの執筆者で写真家の上野由日路さんの著作「オールドレンズで撮るポートレート写真」の中で作例が紹介されています。
個性的なボケを生かしたポートレート作品が掲載されており、私自身も使ってみたくなり、FL 50mm F1.4 I型を入手しました。
入手はオークションにて、一眼レフカメラCANON FTQLとセットで入手したのですが、開放F1.4でフォーカスが無限遠で3mまでしか合わないジャンクレンズでした。入手先にメンテナンスをしてもらい、無限遠で20mまで合うようにはなりましたが、これ以上は無理なようでした。それでも、ソニーα7IIとマウントアダプターの組み合わせで、FL 50mm F1.4を使うと非常に楽しく撮影できます。開放F1.4の暴れるボケの中で薄いピントを探す感覚は、オールドレンズの醍醐味を堪能できます。
余談ですが、FLレンズというと、FDレンズ用のマウントアダプターが一部のレンズで使用できない場合があり、あまり人気がありません。そのため、安価なレンズが多くなっています。FLレンズのマウント部分が干渉することがあるためです。これを解消するには、マウントアダプターのFDレンズの絞り制御ピンを外してしまうなど、マウントアダプターの改造が必要となります。なお、キヤノン純正マウントアダプターのcanon mount converter bを使うと、FLレンズをライカLマウントに変換できるので、お勧めです。
さて、魅力満載のFL50mm F1.4ですが、実は、I型、II型以前の初期型がある、ということを上野さんに教えていただきました。確かに、キヤノンカメラミュージアムを見ると、1965年(昭和40年)4月に4群6枚のFL50mm F1.4が掲載されています。I型が発売された1966年の一年前ですね。ただ、キヤノンカメラミュージアムには写真が掲載されておらず、I型との見分ける方法がありません。レンズ構成が初期型が4群6枚、I型が5群6枚と変わっています。
FL50mm F1.4初期型の情報は非常に少なく、一部のブログにてシリアル番号が3万台より前ではないか、という推測が紹介されていました。また、初期型はアトムレンズで、I型はアトムレンズではない、という話も出ていました。そこで、FL50mm F1.4のシリアル番号が1万2000台のレンズを入手しました。
FL50mm F1.4の初期型と思われるレンズとI型を比べてみましたが、マウント部分のビスの位置が違うくらいで、外観的には違いがありません。分解してレンズ構成を調べるしかないようです。初期型と思われるレンズの描写は、I型と同じくオールドレンズらしさが満載ではありますが、I型との顕著な描写の差は発見できていません。
このレンズは果たしてFL50mm F1.4の初期型なのか?そんな疑問を持ちつつ、FLレンズのオールドレンズらしい描写を楽しんでいます。