AFが未来だった時代 Vol.3 世界初のTTL式オートフォーカスカメラ PENTAX ME F &SMC AF ZOOM 35mm-70mm F2.8
オールドレンズポートレートフォトグラファーの上野由日路です。「AFが未来だった時代」と題してAF黎明期の機材を紹介していきたいと思います。1970年代に、自動露出カメラ(AEカメラ)で世界にどんどん進出していった日本のカメラメーカー。そして1980年代にはさらに先進的なカメラを目指してオートフォーカスカメラを次々と発表していった。当時オートフォーカスカメラは未来のカメラの象徴であるが、実用化は困難と思われていた。しかし日本のカメラメーカーはあっという間に難題を解決してオートフォーカスカメラ全盛期を築いた。未来を目指して邁進した日本カメラの足跡を紹介していきたい。第3回目は世界初のTTL式AF一眼レフカメラのPENTAX ME Fだ。
1977年に登場した世界初のAFカメラ、『ジャスピンコニカ』以降、各社は競ってオートフォーカスカメラを発売した。しかしそれはどれもコンパクトカメラでオートフォーカス一眼レフの実用化は難航していた。各メーカーからフォトキナなどの展示会で試作品が出展されることはあったが様々な理由で実用化されることはなかった。そんな中1981年に発売されたのがPENTAX ME Fだ。オートフォーカス一眼レフの最大の課題はレンズ交換とオートフォーカスをどう両立するかだった。
PENTAX ME Fはコントラスト式AFセンサーを本体側に内蔵し専用のSMC PENTAX AF ZOOM 35mm-70mm F2.8を取り付けることでAFカメラ化する。ちなみにこのレンズはPENTAX唯一のKfマウントである。このカメラはこの後継のSFXシリーズまでの過渡期に登場したカメラになる。カメラの完成度はお世辞にも高いとは言えず試作機的な色合いが濃い。それがこのカメラの魅力ともいえる。それを象徴しているのが 電源スイッチの多さだ。メインの電源スイッチでカメラが起動し撮影が可能なるが、その他にフォーカスエイド起動用のスイッチ起動しレンズの開放値を選択して合焦時の通知音のスイッチを入れる。さらにその上でレンズ側の電源を入れて初めてAFが作動する準備が整う。少なくとも3か所のスイッチを入れなければならないのだ。AFの作動もレリーズの反押しでは作動せず、レンズにある合焦ボタンを押さなければならない。カメラの電源スイッチ。『AUTO』が絞り優先AE,『M』がマニュアル。シンクロ(125X)とバルブは機械式シャッターになる。FI(フォーカスインジゲーター)の電源スイッチ。取り付けるレンズの開放値によりF2.8(より明るいレンズ)とF3.5(より暗いレンズ)のどちらかを選択する。レンズ側の電源。レンズ下部のダイヤルを回すことでスイッチが入り、前面の表示が緑色から赤色に代わる。レンズの上部と側面にフォーカススイッチがある。レリーズではオートフォーカスは作動しない。
肝心のオートフォーカスであるがコントラスト式を採用しているためか現行のAFカメラのスムースなピント合わせからするとかなりぎこちない。ガッガッガッという作動音とともに一定間隔づつピントリングが回り、合焦ポイントを行ったり来たりしてようやく合焦の緑ランプが点灯してピピっという通知音が鳴る。手で合わせた方が早いだろうなと思いつつ健気にピントを探るカメラが合焦位置を探るを待つ。ピント精度自体はそこそこ正確で大幅に外すことはない。そんなME Fであるがそのスペックは完全に本気で同時代の他のフラッグシップカメラと比べても遜色ない。シャッター最高速は1/2000秒で2倍ズームのSMC PENTAX AF ZOOM 35mm-70mm F2.8の開放値はF2.8で固定されている。当時の2倍ズームの多くが開放値F3.5やF2.8-4の可変式だったことを考えるとPENTAXの意気込みが感じられる。カメラの動作条件も-20℃から保証されていた。シャッタースピードがボタンによる入力式なのも使いにくくはあるものの先進的である。このカメラの登場により本格的にAF 一眼レフの時代が見えてきた。OLYMPUS OM30やNIKON F3 AFやCHINONのAFレンズなど続々とオートフォーカス一眼レフが発売される。
コントラスト式AFの採用
当時のAF方式はパッシブとアクティブがある。アクティブ方式はカメラ本体から赤外線や超音波を発信して被写体からの跳ね返りにより距離を測定する方式。ジャスピンコニカやPENTAX ME Fなどはパッシブ方式になる。パッシブ方式にもいろいろな検出法が存在する。世界初のAF『ジャスピンコニカ』ではハネウェルモジュールによる三角測量方式を採用している。一方のPENTAX ME Fはコントラスト方式を採用している。
コントラスト方式は合焦時にコントラストが最大になることを利用してピントを検出する方式。
前ピン後ピン時はコントラストが落ちる。ボディー下部にあるフォーカスセンサーでピントを検知する。従来の機械式カメラのいいところとCmosセンサーを使ったオートフォーカス技術を支える電子回路。カタログにあるように最新のエレクトロニクスと高精度の光学技術の融合である。当時最先端だったこのカメラであるが試作の色が濃く後継カメラは現れなかった。そしてこのカメラから4年後の1985年にミノルタから圧倒的に洗練されたオートフォーカスカメラシステムのα7000が発売された。