資本主義とは違い競争社会ではないため新しいレンズ構成の採用よりも従来のレンズラインナップを安定生産することが優先され、プリモプランが引き続き生産され続けたのだ。その際、戦前のプリモプラン5.8cm F1.9では真鍮製だった鏡胴はアルミ製に変更され、レンズもシングルコート化された。名前も58mm F1.9 とミリ表記になった。その際、描写の特性も現代風にアレンジされ過剰補正となり描写はやや硬い印象となった。戦前は高級レンズとしての地位を獲得していたプリモプランだが戦後は生産性を重視した大衆向けの汎用レンズとして生産が続けられたのだ。
そんなプリモプランが見直されたのは21世紀になってからである。
デジタルカメラ、とくにミラーレスカメラの台頭で古いレンズの写りが再評価されるようになった。デジタル時代に入りこれまで優れたレンズの基準とされてきたコントラスト、発色、シャープネスなどはすべてカメラボディー内やRAW現像で調整できるようになって来た。
レンズに求められることはそのレンズ特有の個性があるかどうかということだ。1930年代の大口径レンズ戦国時代に生まれたプリモプランは独自のレンズ設計をしている。ごく一部のレンズを除き同じ設計は存在しない。それゆえその写りも実に独特なのである。同じ時代に競い合ったライバルたちはどのレンズも短命に終わり現存する個体はごく僅かでコレクターズアイテムと化し入手は困難を極める。
歴史の流れに翻弄されたことでプリモプランは1950年代の後半まで生産を続けられた。そのせいで十分な数が市場にある。唯一の写りを皆が楽しめるのだ。ちなみに同じPrimoplanでも戦前モデルの5.8cm F1.9は現存数が少なく中古市場では戦後タイプの5倍~6倍の値が付く。
プリモプランの特徴はピント部の滲みと画面全体をうっすらと覆うベール状のフレア、そして崩壊するようなほろほろとしたボケだ。