2019.04.20

Ernst Leitz Wetzlar, Hektor Rapid(ヘクトール・ラピッド) 2.7cm F1.4

ライツがシネレンズを供給していたと聞いて意外に思う方も多いかもしれませんが、1934年に登場した16mm映画用カメラのBOLEX 16Hに搭載するレンズとして確かに供給されていました。同社のレンズ設計士マックス・ベレークがトリプレットからの発展形態として1930年から1931年にかけて開発したヘクトール・ラピッド(Hektor Rapid)です。レンズはCマウントで供給されておりアダプターを利用して各社のミラーレス機にマウントできますが、イメージサークルはマイクロフォーサーズをギリギリカバーできる広さですのでオリンパスやパナソニックのミラーレス機で用いるのがオススメで、明るい標準レンズとして使用できます。このレンズが開発された当時はツァイス・イコン社のルードビッヒ・ベルテレがコンタックス用ゾナーをF1.5の明るさで設計し、世界に衝撃を与えた時代です。一方で、これとほぼ同時期にベレークが本レンズをF1.4の明るさで設計していたことは賞賛に値します。

1934年から1937年まで製造された初期のモデルはガラス面にコーティングのないノンコートモデルで、焦点距離の表記は2.5cmでした。1937年になると2.7cmの実焦点距離が表記されるようになっています。翌1938年にはガラス面にコーティングの施されたモデルが登場しています。レンズの製造は第二次世界大戦中も続きましたが、戦後はBOLEX の製造を手掛ていたスイスのバイヤール社がカメラに搭載するレンズを自国製のケルン・スイター(Kern-Paillard Switar)25mm f1.4に変更したため、Hektor Rapidは役割を終え生産中止となっています。

レンズの設計は下図に示す4群7枚で、トリプレット(3枚玉)を起点に改良が進められ、最終的にこの構成となりました。開放F値が明るく生産本数が少ない上、ライツのブランドということもあり、現在でもたいへん人気のあるレンズです。

Hektor Rapidの構成図

では、写真作例をみていきましょう。

ノンコートのCマウントレンズにしては発色がかなり良好で、この構成図スケッチ種のレンズを使い慣れている人には目から鱗かもしれません。近接撮影では適度に滲みソフトな描写傾向が強まりますが、反対にポートレートから遠景ではもう少しシャープに写ります。少し絞るだけでコントラストは急激に向上し、スッキリとヌケの良い描写になります。遠景を開放で撮ると前ボケが四隅に向かってグワーッと放射状に流れ、とても面白い画になります。

F1.4(開放) Hektor Rapid ノンコート初期型 + Pen E-P3(AWB: Aspect ratio 19:6)

F1.4(開放) Hektor Rapid ノンコート初期型 + Pen E-P3(AWB: Aspect ratio 19:6)

開放F1.4 Hektor rapid コーティング付+ Olympus E-P3(AWB, Aspect ratio 4:3):引き画では、前ボケが四隅に向かって大きく流れることがあります

F2 Hektor Rapid コーティング付+ Olypus E-P3 (AWB/ Aspect Ratio 4:3): 発色はとても良い。グルグルボケが出ることもあります

F2.8 Olympus E-P3(AWB): 少し絞ればかなりシャープでヌケの良い描写になります

F1.4 Olympus E-P3(AWB)  :近接撮影ではソフトな描写傾向が強まります

※本記事はM42 mount spiralという自身のブログに掲載されている記事を新たに加筆・編集したもので、画像は既出のものを使用しています。