2019.01.02

手軽に買えるヒストリックなレンズたち Vol.2 E.Leitz Elmar 5cm F3.5 Rim Set Comper

オールドレンズ写真家の上野由日路(よしひろ)です。
オールドレンズの世界で銘レンズといえば「高価」なイメージがありますが、実はそうでないレンズもあります。もちろんこれから値段が上がらないとは限らないのですが現状,
手軽に買える値段で由緒正しい銘レンズを紹介していきます。

2回目の今回紹介するのはElmar 5cm F3.5。

ただエルマーといっても普通のエルマーではなくコンパーシャッター仕様のElmar5cm F3.5だ。このレンズはシリアルナンバーから1932年前後のレンズだと思われる。この時代のライツ社から紹介していきたい。

エルンスト・ライツ社を一躍有名にするきっかけとなったのは1925年のライカカメラの発明であろう。オスカー・バルナックの手で生み出されたこのカメラがその後のカメラの主流となり世界を席巻していくとは当時のオスカー本人も想像できなかったに違いない。そのカメラについていたレンズはLeitz Anastigmatと呼ばれるレンズだ。このレンズは非常に希少で現在では普通の人ではまず入手はできないであろう。ライツアナスティグマットはその後改名されてエルマックス5cm F3.5となる。
こちらもLeitzAnastigmatほどではないがコレクターズアイテムとして相当な金額で取引されている。その後ライツ社の光学設計者マックスベレークが満を持して発売したのがエルマー5cmF3.5である。エルマックスの3群貼りあわせを2群とした設計は一見テッサー型に見えるがエルマックスからの流れを汲んでいるのでエルマー型とも呼ばれる。このエルマーは設計当初はGoertz社からガラスの供給を受けて生産されていたのだが、1926年にCarlzeissがコンテッサネッテルやイカなどと共にゲルツも合併してツアイスイコン社を設立したため供給が途切れ、途中からショット社のガラスに切り替わっている。ゲルツから供給されていたガラスを使っていたエルマーは旧エルマーと呼ばれその後のエルマーとはまったく違う価格で取引されている。その1926年に登場したのがライカⅠB型である。日本ではB型ライカと呼ばれる。ライカⅠBはこれまでのⅠ型とは違ってレンズシャッターを採用した風変わりなライカであった。その理由は諸説あるがライカⅠ型のウイークポイントであったスローシャッターを補うためレンズシャッターを搭載したとか、寒冷地での信頼性をあげるためであるといわれている。

上段左がダイヤルコンパーシャッターの前期型、下の段がリムセットコンパーシャッターの後期型(Leica COLLECTORS GUIDE/DENNIS LANEYより )
しかしフィルムチャージとシャッターチャージを別々にしないといけなかったり絞りやシャッタスピードの設定がレンズ側にあったりと前世代的なつくりは不評で生産台数は伸びなかった。しかし現在ではその希少性のおかげで前期型と呼ばれるコンパウンドシャッターのモデルは100万円以上、コンパーシャッターの後期方もその半分位の価格で取引されている。

なぜこの話をしたかというと今回紹介するレンズがこのライカⅠB型後期レンズの兄弟にあたるレンズだからである。ライカB型後期のエルマー5cmF3.5よりさらに後の1932年頃に作られたOEM用のエルマー、それが今回紹介するエルマー5cmF3.5だ。僕の個体は1930年代に作られていたKW社のPilot(ピロート)というカメラに付いていたものだ。年代的に旧エルマーではないが、かなり初期のエルマー、しかもⅠB型と同じ時期に作られたレンズだ。

同時代に作られたOEMのElmar5cm F3.5コンパーシャッター搭載のピュピレ(Leica COLLECTORS GUIDE/DENNIS LANEYより )

前述したがⅠB型はダイアヤルコンパーの前期が638台、リムセットコンパーの後期が1072台と言われていて非常に高価で希少である。しかし同じ時期に作られたOEMのエルマーは驚くほど手頃でこれらの1/10以下の価格で買える。しかもこの時代にはまだマックスベレークがライツ社に在籍していた期間とも重なる。つまりこのエルマーはベレークによって設計されたオリジナルのエルマーでライカⅠBのコンパーシャッターの兄弟ということになる。

今回のエルマーはジャンクのピロートカメラに付いていた物を抜き出したものになる。僕は基本的に使えるカメラからのレンズの抜き出しはしない。ジャンクで使えなくなったカメラに付いているレンズの救出として抜き出したり、あらかじめ抜き出されたレンズを使う。今回のレンズは写真でもわかるとおりシャッターが完全に錆びて不動になっていた。本体も完全に使えないものをジャンクとして数千円で購入した。


柔らかくも深い写りをする。解像力はそれほどでもないがノンコートレンズらしいしっとりとした写りをする。ハイライトからシャドウまでしっかり再現されていて諧調は豊かだ。一般的に趣が無いといわれがちなテッサータイプのレンズであるがオールドエルマーは非常に趣があるレンズだ。


ビジュアル的にもインパクトがあるおすすめのレンズだ。