2019.01.17

おすすめのオールドレンズはこれだ!第3回:Carl Zeiss Planar T* 85mm F1.4(YASHICA/CONTAX)

こんにちは!玄光社フォトテクニックデジタルでオールドレンズ・ポートレートのすすめシリーズを連載しております、鈴木 啓太/urbanです。2019年1月20日発売のフォトテクニックデジタル2月号では冬の光の
オールドレンズ・ポートレートのすすめを執筆&撮影しておりますので、ぜひご覧ください(詳細はこちら)。今回は、オールドレンズライフ2018-2019にて執筆を担当しました、キャラ立ちする中望遠レンズよりCONTAX Carl Zeiss Planar 85mm F1.4を紹介します。オールドレンズの85mmは特徴的且つ描写が良い物がそろっていますが、なかなかこれを超えるレンズには出会えていません。スペックは次のとおり

Carl Zeiss Planar T* 85mm F1.4(AEタイプ、MMタイプ)
マウント:ヤシカコンタックスマウント
フォーカス:マニュアル
レンズ構成:5郡6枚
最短撮影距離:1m
重量:595g
フィルター径:67mm
中古相場:5万円前後

今となっては最短撮影距離が若干長くオールドレンズでは若干重いのが、スペック上の欠点かもしれませんが、それ以外は中望遠カテゴリでは平均的な感じですね。それでは早速ですがいくつかの作例をどうぞ。

このレンズの一番の特徴はなんと言っても開放時のフレア感!これに尽きます。特にハイライトの瑞々しさではこのレンズに勝てるレンズは無いんじゃないかなってくらい素晴らしい。
さすがに逆光ではコントラストが落ちますが、落ち方が心地よいというか、他のレンズに見られるような低コントラストの渦に支配されるような絵になりにくいのが特徴です。Lightroom等の現像ソフトでもコントラストの回復は比較的容易です。フレアと同時にでるのが、ハイライトの瑞々しさ。これは特に逆光下で光の当たる植物などを撮った時に良くわかると思います。面白いのが、Leica(ライカ)系レンズの光の捉え方とまた違うところ。ライカ系はハイライトににじみが強く出ますが、ツァイス系レンズ(特にこのレンズ)はにじみはほぼなく、光(フレア)に包まれるというようなイメージで撮れる事が多いです。朝と夕方の光のやわらかい時間帯にツァイスレンズで撮られた写真に、空気が映っていると表現されるものが多いですが、このあたりの特徴が影響しているのではと思っています。線が細く解像感と柔らかさのバランスが良い為、女性ポートレートや子供を撮るのに適していると言えます。
※フレアは写真のコントラストを低下させるレンズの欠点と捉えられますが、ここではオールドレンズのメリットの1つとして紹介しています。

続いて、柔らかさを引き立てるのに一役買っていると考えるのが、シャドウ部の浮きです。このレンズには、撮影条件によってはシャドウが浮くという特徴があります。「浮く」とはどういうことかと言うと、写真全体のコントラストが低く暗部のしまりがないということになります。Lightroom等の現像ソフトを例に取ると、ヒストグラム上で黒レベル~シャドウのデータが少ないことをイメージしてもらえばよいかと。
この特性により、プラナー85mm F1.4は特定条件下でコントラストのやや低い絵になることが多くあります。

これが現像前の状態。

ヒストグラムはこんな感じです。
※ISOとSS(シャッタースピード)は正しい情報ですが、焦点距離とF値はレンズ側に電子接点がないので、正しく情報が伝わっていません。

そして現像後の状態。
今回は逆光の状態だったため、黒レベルを少し下げてコントラストをつけています。黒レベルを上げる現像をする方は少ないかと思いますが、僕はあえて黒レベルを下げずにかなり上げる現像を行うことが多々あります(特にポートレート時)。黒レベルを上げることでコントラストが下がり、やわらかい絵になるんですよね。このレンズはデフォルトでその特性を持っていると考えてもらってよいと思います。コントラストを強くしたい場合は黒レベルをマイナス側に倒せば明暗が出てくるので、硬い絵にすることも可能です。その場合彩度が大きく上がってしまうので、注意が必要かもしれません。このフレアとシャドウ部の浮きがもたらす、自然な階調感がポートレートに向いているゆえんだと僕は考えています。

続いてボケです。
これらは全てF1.4~2.8程度で撮っています。開放値でもミラーレスカメラのピント拡大機能を使って手振れなく確実にピントを合わせることができれば、十分な解像度を得ることができます。髪の毛の部分や、ピント面からボケ面にかけてのなだらかさ、さらに背景との分離は優秀な中望遠、望遠レンズが持つ特徴の一つです。この解像感はデジタル機の力もあってかと思いますが、40年ほど前にここまで完成されているレンズがあるのは恐ろしいですね。本レンズのボケは滑らかで美しいと感じますが、F2~2.8あたりが解像とボケのバランスがいいように感じます。フレアを重視したいならF1.4~2、ある程度の解像力とすっきりとした描写を得たいならF2.8と使い分けるのがよいでしょう。また、このレンズは特徴絞ると絵が固くなるというオールドレンズによく見られる特徴も持っています。中望遠かつポートレートで絞って使うことはまれだと思いますが、この特性を把握していると、表現の幅が広がると考えています。

勿論、良い面だけではなく欠点もあります。
それは次の2点
・フリンジが強い(深い)
・絞り羽根の枚数が少なくボケの形が汚い

特にパープルフリンジが発生しやすいのは、このレンズにおける明確な弱点です。
※フリンジとは、デジタルスチルカメラ等において、高輝度部分に隣り合った低輝度部分に紫色やマゼンタ色の偽色が出る現象のことである。(wikipediaより引用)
パープルフリンジはLightroom等の現像ソフトで手軽に修正ができるようになりましたが、その修正は完璧とはいえません。修正を行ってもパープルの領域がグレーに置き換えられるだけなので、見栄えがよくないんですよね。仕方なく補正はしますが、補正しにくいことが多く明確な欠点であると言えます。特にサンプルの様に空をバックにした逆光撮影では良く発生します。

続いて、絞り羽の少なさからなるボケの形状の汚さです。上の画像はMMJのF2で撮影しており、よく見るとボケの形が丸ではなく八角形になっていることがわかります。この世代のオールドレンズは基本的に絞りはねの枚数が少ないですが、高価なCONTAXシリーズでの絞り羽の少なさは弱点といえるでしょう。MMシリーズはこれでも良いほうですが、旧型のAEシリーズはさらに絞り羽根の枚数が少ないため、F2.8程度に絞ると明らかにギザギザのボケになります。ポートレートなどでは、背景をぼかすことも多いためできれば後期型のMMシリーズを使うようにしたいところです。実際にギザギザのボケと分かるような写真が撮れることは稀ですが、頭の片隅においておいたほうがよいかもしれません。
まあそれで絞り羽根の3枚のおにぎりプラナー(Rollei Carl Zeiss Planar HFT 85mm F1.4 QBMマウント)とかよりはマシですけどね 笑 気になる人は是非検索してみてください。

さて、如何だったでしょうか。
ポートレートの銘玉とまで言われる本レンズですが、メリットデメリットを併せ持つレンズです。描写の方向性はややおとなしいですが、特徴をコントロールすることで現行レンズにはない柔らかさと瑞々しさを伴った正に銘玉といった働きをします。
タクマーやヘリオスなどオールドレンズの導入レンズからのステップアップにも持って来いなこのレンズ、是非使いこなしてみてください。

最後はこのレンズが稀に見せる特徴的なゴーストと、バストアップよりも実は美味しい少し絞った引きの絵も載せて終了とします。
次回のレンズはまだ未定ですが、短いスパンで公開できればなと思っています!