Fujinon55mm F2.2の構成の謎
オールドレンズ写真家の上野由日路(よしひろ)です。
FUJINON 55mm F2.2というレンズがある。
何の変哲も無いレンズに見えるが、そのレンズ構成がなかなか悩ましい。
これが一般に世に出ている構成図だ。これを見る限りスタンダードな初期エルノスター型に見える。
エルノスターはエルネマンのルードビッヒ・ベルテレがクルーグハルトとともに若干23才で設計したレンズである。
しかしフジノンはエルノスター型ではない。なぜならこのレンズ構成図左右逆転なのだ。
通常レンズ構成図は左側が被写体側、右側がフィルム側で書かれる。この構成図はそれの位置関係が逆なのだ。なので正確には
こういうことになる。そうすると一気に構成がわからなくなる。
よく言われているのはトリプレットの派生型のスピーディックだ。
スピーディックはテイラーホブソン社のH・W・リーが1924年に設計したレンズだ。リーはオピックやスピードパンクロを設計した設計者として知られる。
スピーディックはトリプレットの3枚目のレンズを分割することにより強い正パワーを持ちながら曲率を緩やかに抑えて収差を抑える設計です。
トリプレットとスピーディックを並べてみる。3枚目のレンズが2枚に分割されているのがわかる。レンズは前から+-++のパワーバランスを持ちます。
もう一つの候補がパオロ・ルドルフの「ウナー」です。
このレンズはパウル・ルドルフが1899年に発明したレンズで後にテッサーへと進化する。
レンズの持つパワーは+--+だ。フジノンのレンズパワーは+-++に見える。三枚目のエレメントが正のパワーを持っていればスピーディック、不のパワーを持っていればウナーと同じパワー配置になる。
Fujinonの3枚目のレンズはどちらなのか?
取り外して細かい文字の上においてみると、僅かに文字が大きくなっているのが分かる。
これはすなわち正パワーを持っているということになる。
無限遠を見たときに景色が反転して見えたことからもこのレンズは凸レンズである。
つまりフジノンのレンズパワーは+-++となる。レンズパワーからするとスピーディックと言う事になる。
しかしスピーディックはトリプレットの派生型なので基本形は両凸、両凹、両凸。それが最後の一枚を2分割する形。3枚目と4枚目は収斂作用を担当している。フジノンの3枚目はごく弱い凸メニスカス。収斂作用は弱く基本的な設計理論が合っているとは言いがたい。
一方ウナーの3枚目はごく弱い凹メニスカス。このレンズは収差補正を受け持つ。後群の収斂作用は3枚目と4枚目の間の凹型の空気間隔と4枚目の凸レンズが担当する(凹型の空気間隔は収斂作用を持つ)。フジノンにおいても3枚目が収差補正を担当するなら弱い正や負のパワーはあまり意味を持たない。メニスカスを採用しているところから収差を補正していると想像できるが確証は無い。さらにウナー同様収斂作用は凹型の空気間隔と4枚目の両凸レンズが担当している。これらの状況から判断するとフジノンレンズは理論的にスピーディックよりはウナーに近いと言える。
正確には変形ウナータイプというべきか。今回の記事を書くにあたり相談に乗って頂いたM42マウントスパイラルのスパイラル氏もウナー説を主張している。
ここからは個人的な仮説になるが、3枚目のメニスカスが正のパワーを持っているのはバックフォーカスを短くする為ではないかと推測される。55mmという焦点距離からわかる通りこのレンズ構成にはフランジバックにウイークポイントがある。そこを少しでも埋める為の正パワーではないか?もちろんこれは推論の域を出ない。
他にも変形エルマータイプという説もある。
ちなみに海外ではこの構成をフジノンのタイプとして独自構成と見ているようだ。ほんとはこれが一番正しいのかもしれないと最近では思っている。
いずれにせよ非常に珍しい構成のレンズが国産レンズに採用されているのは喜ばしいことだ。