2018.10.10

おすすめレンズレビュー 銘玉の予感 KOMURA 135mm F3.5

オールドレンズ写真家の上野由日路(よしひろ)です。今回は三協光機のKOMURA(コムラー)に焦点をあててみます。135mmは中古相場が安価なわりには写りが良いレンズが多く「135mmに外れなし」と言われたりもします。中でも今回のコムラーはジャンクレンズコーナーの常連ですが昔から評判の良いレンズです。早速レンズの実力を見ていきましょう。



三協光機は1951年に創業したレンズメーカー。各カメラメーカー用の交換レンズを製作していた。一眼レフ黎明期にありカメラメーカーが苦手としていた広角、中望遠、ズームレンズを得意としていた。今回取り上げる135mmF3.5は中望遠の廉価版レンズだ。コムラーの135mmには廉価版のF3.5の他に通常版のF2.8,高性能版のF2.5、さらに高性能なF2が存在する。85mmや100mmにはさらにハイスペックなF1.8も用意されていて海外では根強い人気を誇る。今回最もグレードの低い135mmに着目したのには訳がある。それはこのレンズのレンズ構成だ。

このレンズ構成、天才レンズ設計者「ルードヴィッヒ・ベルテレ」が若干23才にして設計した「エルノスター」型なのだ。しかも1923年の初代エルノスター型なのだ。

エルノスターは後に「ゾナー」に進化するが、完成形で各国で数多く造られた「ゾナー型」と違い「エルノスター型」は少ない。
コムラーの135mmもその多くは(テレ)ゾナー型で初期エルノスター型はF3.5の後期に限られる。(前期はトリプレットである。)
135mmに外れなしといわれるように135mmレンズは後ボケの綺麗で写りの安定したレンズが多い。裏を返せば個性の出づらい焦点距離になる。その中でこのレンズは独特の写りを持っている。それは安定したゾナー型やガウス型ではなく発展途上だったエルノスター型を採用したからであると思う。その独特な写りを見ていただきたい。


ピント面は非常にシャープである。コムラーは発売当初から写りのシャープさに定評があった。そして注目してもらいたいのは背景のボケや周辺部の写りだ。背景のややザワザワした写りは一昔前なら「汚いボケ」として一笑に付されていたが「美しいボケ」が普通になってしまった現代においてはこんなに特徴的で趣のあるボケはない。絵画のマチエールを思わせるザワザワとしたボケは特徴的ながらも決して被写体を邪魔しない。それどころか画面全体を立体的に見せている。

おそらく発売当時は生産コストを抑える目的でエルノスター型を採用したのだと思う。貼り合せのない初期エルノスター型は貼り合わせ面を2面持つガウス型や複雑な貼り合わせを持つゾナー型などに比べ製造にかかる手間が少なくてすむ。しかもガラスは4枚しか使わないのでコストを抑えることも出来る。量産に最適の型なのだ。当時としては背景のザワザワはレンズの価格ゆえにある程度妥協されたものだと思うが価値観が変わるにつれ魅力へと代わっていった。しかも初期エルノスターは過渡期の設計であるがゆえに採用された例も少なく現在では希少な設計になっている。このレンズも今後再評価が進むであろう。